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2022年IPAT大会に参加して

IPAT( International Porcelain Artists & Teachers, Inc.)2022大会参加レポート


2022年9月、米国ジョージア州のタイビーアイランドで7日間(9/18~24)にわたり開催されたIPAT大会に招待講師として参加して参りました。

二年前、2020年の9月にIPATの新プレジデントとなったスザンヌ・ペインター氏(スザンヌ)から私にIPAT日本代表(ボードメンバー)になってほしいとのメールが届きました。その頃私はJPACの会長としてのお役目もあり、自分の気持ちでは、あくまでもJPAC優先でしたが、スザンヌは私がかつてお世話になった絵付けスクール(GA Seminar by the Sea)のオーナーであり、むげに断れない思いがありました。そこで「十分な事はできないかもしれないし、大会に参加する事ができない可能性がある。」という条件を了解して頂き、二回目のIPAT日本代表を引き受ける決心を致しました。そしてその数か月後、スザンヌからIPAT2022年大会にはぜひ招待講師として参加してほしいとの依頼メールが届きました。思いがけないオファーに、しばらくは海外には行かない決心をしていた私の心は大いに揺れました。コロナ禍が2022年に収まる確証はないし、高齢の両親がいるのに唯一の子供として責任ある立場の私が外国に行く約束をしてしまって良いのか。招待講師という事であれば自分の都合で簡単にキャンセルすることはできません。しかし、心の中で「まだ米国でアーティストとして自分が求められているのであればどうしても行きたい」という思いが膨れ上がりました。そこで家族全員に思いを告げて、了解と協力を得ることができたので参加する決心を致しました。

招待講師と言ってもIPAT大会の講師の特典は、行事の無料参加と全宿泊と食事とブース、講師料が支給されますが旅費は含まれません。幸い、私がIPAT大会に参加する事を知ったカリフォルニアの生徒さん達のグループが、大会前に私のセミナーを企画して米国の国内旅費を負担してくれることになり、そのセミナーの講師料で他の旅費をカバーできることになりました。そのようなわけで、大会に先立ち、9月11日にまずカリフォルニア州のオレンジカウンティ―に向けて成田空港から出発しました。出発直前に帰国便搭乗前のPCR検査が不要になる事が決まり、心からホッとして飛び立つことができました。

リアルな英会話は実に六年ぶりで、到着後、最初の二日間くらいは英語がスムーズに出てこない事にとても焦りましたが、時差調整のための観光を用意してくれていたので、言葉も時差もその間に何とかリセットさせました。こうしてカリフォルニアで『Celestial Crane』のセミナーを無事終了し、オレンジカウンティ―からニューヨーク経由で9月17日にサバナ空港へ到着しました。国内線とは言え、乗り換えを含め西海岸から東海岸は15時間くらいの移動であり、時差も3時間あり、改めて米国の広さを思い知らされました。到着時には重量制限いっぱいの大荷物を抱えてへとへとでしたが、来ているはずのお迎えが見つからず不安が募りました。しかし一人で複数のスーツケースを持って探し回ることもできず、ベンチに座って「私がいなければIPAT大会のセミナーできないのだから絶対誰か見つけに来る」と信じて一時間ほど待ち続けた結果、IPAT仲間が探しに来てくれて、他の到着組に合流することができました。こうしてIPAT大会が開催されるHOTEL TYBEEに無事到着しました。

かつてタイビーのスクール(GA School by the Sea)に教えに来ていたのは、毎年二月のシーズンオフの時期であり、砂浜やメインストリートはいつも閑散としていました。しかし、今回は九月という観光のハイシーズンで、海水浴の客が大勢で町を闊歩する賑やかさは、とても同じ町とは思えず、新鮮な驚きがありました。

会場に到着してみると、驚いたことにヨーロッパからの先生は二人も直前で参加キャンセルとなり、その先生のセミナーに申し込んでいた生徒はZOOMセミナーに変更になり、皆がっかりしていました。そのせいか私のクラス『Chrysanthemums with Platinum texture』は人気となり、結局、頼まれて定員以上の11人の生徒に教えることになりました。セミナーは4日目の午前中で終了し、午後から本番の会場設営が行われました。ブース会場はホテル別棟の一階と二階に分かれ、壁際に沿ってブースが設営され、それぞれの階の部屋の中央に置かれた合計四つのテーブルでは、順番に様々なアーティストのデモンストレーションが行われました。私は一番遠方から参加した招待アーティストでしたので、ブースの場所やデモの時間など、優遇してもらう事が出来、持参した材料はほぼ売り切ることができました。

展示・コンベンション会場は、大西洋がガラス張りの窓いっぱいに広がるスキップフロアのホールでした。私自身は今回出品しませんでしたが、カリフォルニアセミナーで教えた『Celestial Crane』のオリジナル作品をIPATミュージアムに寄贈することにし、その作品を展示して頂きました。

かつてのIPAT大会に比べるとコロナ禍の影響で海外からの参加者が少なかったせいか、出品数はあまり多くありませんでしたが、それでも見ごたえのある作品はいくつもありました。出品作品の一部はIPATの雑誌『Porcelain Artist』の最新号(2022年10、11、12月号)でご覧になっていただく事ができます。

今回、日本人の参加者は私一人でしたが、食事やパーティーの時にはいつも旧知の友達や生徒さん達が誘ってくれたので、寂しい思いをすることも無く過ごすことができました。

最終日に行われた歴史あるアメリカ南部の街サバナ(Savannah)でのクルーズディナーは大変思い出深い経験でした。そもそもタイビーアイランドを何度も訪れているのに、いつも教えるための準備で余裕がなく、今まで近くのサバナ観光をしたことがありませんでした。サバナは少女時代に夢中になって読んだ小説『風と共に去りぬ』の主人公スカーレット・オハラの母親の出身地として知られている街でもあり、機会があれば一度は立ち寄りたいと考えていましたので、今回この企画が含まれていたことがIPAT大会参加の動機の一つにもなったと言っても過言ではありません。午後、ホテルに「トロリー」という巨大な荷車に座席が付いたような乗り物二台が迎えに来て、参加者はそこに分乗してサバナの街へ向かいました。片道40分くらいのドライブでは、はるか大西洋を望む広大な湿地帯に点在する別荘、見たこともない鶴のような鳥を眺め、自然のパノラマを見るようでした。トロリーを降り、夕暮れ時に輝きを増すクラシックでおしゃれな街かどを散策し、クルーズ船に乗り込みディナーの席に着きました。ディナーはいわゆるバイキング方式で、好みの料理を順番に取って着席するのですが、切り分けてくれたローストビーフの巨大さには改めてびっくりしました。ディナーが終わるとお決まりのダンスタイムがあり、生バンドに合わせて、昔の少女たち(IPAT会員のおばさん連中)がホールに繰り出して踊りまくるというのはIPATの恒例行事です。当然、私もその輪に加わり、本当に楽しいひと時を過ごしました。

ディナーの後には皆でデッキに出て、沈みゆく夕日と、夕日に染まるサバナの街を眺め、友達たちと会えない間に起きた出来事や、大会中には話す時間も無かった個人的な思いを語り合い、国籍は違っても同年代の女性に共通する様々な状況を共感しあいました。これはIPAT大会に初参加した20年前(2002年)には全く想像できなかった自分の未来であり、この場所にたどり着くことができた幸せに、深い感謝を覚えるのでした。

翌朝は、早い出発でしたので、ルームメイトのBirgit Porterさんに夜のうちに別れを告げ、トランクの空いたスペースにはお土産を詰めて帰国の途に就きました。出発の国内線が遅れて、乗り換えのシカゴ空港では荷物を持って猛ダッシュするという事になり、最後までハラハラドキドキの旅でした。

次のIPAT大会は2024年にテキサス州のダラスで行われます。大会では作品展示やコンベンションが行われ参加者は事前申し込みをして自由に出品し行事に参加することができます。ブースで買い物をし、デモやワークショップで様々な技術を学ぶこともできます。引っ越してリニューアルされたIPATミュージアム訪問のツアーも組まれるとのことです。皆さんも是非一度参加して世界中のポーセリンアーティストとの交流を深めてはいかがでしょうか。きっと新たな発見や出会いがある事でしょう。


IPATのホームページ:www.ipatinc.org(日本語のページもあります)

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