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私の自粛生活

COVID19の影響で、2020年4月に予定され、ほとんどの準備が完了していた絵付けの一大イベント『JPAC国際エキシビション2020』は2月の末に中止の決断を余儀なくされました。予定されていた絵付けレッスンもすべて中止となり、忙しさと緊張感にあふれた日常が突然断ち切られ、なすすべもなく、ぼんやりとしながら始まった3月でした。

突然与えられた予定の無い日々をどう過ごすか。多くの主婦と同じように、私もとりあえず『お片付け』に着手しました。今の家に引っ越してからまだ3年半なのに、スタジオの棚からは忘れ去られた絵付け材料や白磁がザクザクと発掘され、自分でもあきれるほどの大量在庫が床一面に積みあがりました。一部を断捨離し、捨てるに忍びないものは、せめて一目でわかるように整理しながら再収納したのですが、今後どのように有効利用していくか、頭が痛い問題です。まだまだほとんどのものに『ときめいて』しまうので手放すのは簡単な事ではありません。

スタジオの模様替えもしました。14年くらい使っていた4人掛けテーブルセット2組は、緊急事態宣言発令直前に『トレジャーファクトリー』に引き取って頂き(ちなみに一組1000円のお買い上げでした)、代わりに軽井沢教室で使っていた大型ダイニングセットを運んできてスタジオに設置しました。

『お片付け』が一段落すると、再びステイホームをどう過ごすか考えました。そして、長年『絵付け』のために我慢していたさまざまな『やりたい事』を、今こそ誰はばかることなく自由にやろうと決めました。まず映画・ドラマ鑑賞。アマゾンプライム会員になって『アボンリーへの道』と『ダウントン・アビー』を全シリーズ見て、それから読書。十代のころは親もあきれるほどの『文学少女』で暇さえあれば本を読んでいた私も、大人になってからは、常にやるべきことに追いまくられて、読みたい本に没頭するという贅沢を自分に許すことはありませんでしたが、ついにそれが許される時が来ました。読みだしたら必ず我を忘れる確信があったJane Austinの全6冊『高慢と偏見』『ノーサンガー・アビー』『分別と多感』『マンスフィールド・パーク』『エマ』『説得』と、ミシェル・オバマの『My Story』を読破、それからすべてのJane Austin関連DVDと映画を鑑賞。英国BBCの『高慢と偏見の』のDVDは面白すぎて、すべての英語のセリフをワードに書き出して、自己流完全翻訳に挑みました。Jane Austinの作品のほとんどには登場人物がピアノを巧みに弾きこなす場面があり、スト―リー展開のキーポイントになっています。そんな場面を繰り返し見ているうちに、私もむらむらとピアノを弾きたい気持ちが湧き上がってきました。そしてついにはピアノを買う決断に至りました。

実は私は5歳から13歳まで、ピアノを習っていました。中学生になり毎日の練習が負担になりやめてしまったのですが、ピアノが嫌いになったわけではなく『エリーゼのために』と『乙女の祈り』だけは完璧に弾きこなせるように折に触れて練習していました。しかし、20代半ば、結婚と共にピアノがあった実家を離れ、鍵盤に触れる機会はめっきりと減ってしまいました。

息子が5歳になりピアノを習いだしたときに、実家からピアノを引き取り、再び身近に置くこととなりましたが、ちょうどこの頃私は『絵付け』に出会ってしまったので、余暇は全て絵付けに投入し、鍵盤に触れることはあまりありませんでした。その後、息子も中学入学と同時にピアノをやめ、閉じられたままのピアノは、猫の『たま』の定位置となり、その後、絵付作品用の飾り棚を置く場所を確保するために処分されたのでした。その頃の私はまさに絵付けに全力投入の時期で、心の中で『絵付けにかける時間』と『ピアノにかける時間』を天秤にかけ、今後の人生の選択をしたつもりでした。

しかし、なぜ好きだったピアノを弾かなくなってしまったのかを冷静に振り返ると、絵付けに夢中になったこと以外にも理由があり、それは『音の問題』だったと思います。一戸建てに住んでいたのですが、私が持っていた旧式のヤマハのアップライトピアノは大きな音を響かせるピアノでした。弾くたびに、近所に音が漏れていないか、家族の邪魔にならないか、気にしながら練習するのは億劫になってしまったのでした。

自粛生活が始まり、改めて『ピアノ』をネット検索してみると、消音装置付きや、インテリアになじむ家具調ピアノもあり、今は様々な選択肢があることを知りました。

家族の了承も取れ、4月の末にはピアノを買うという私の気持ちは固まっていました。5月なかば、自粛で閉店していたピアノのショールームが再開したその日に駆け付け、唯一の客として思う存分試し弾きし、気に入ったKAWAIの家具調ピアノを手に入れました。長年にわたりほとんど弾いていなかったのにそれなりに指が動いたのは感激でした。

そして自粛明けの6月1日、ついにピアノは私のスタジオに到着しました。早速、教則本『ハノン』で指のトレーニングを再開し、ベートーベンの『エリーゼのために』とDVD『高慢と偏見』でビングリーのお姉さんが弾いていたモーツアルトの『トルコ行進曲』の練習を始めました。両方ともかつて引けた曲でしたが、再び上手に弾けるようになるには少し時間が必要でしょう。今度のピアノは消音装置が付いているのでもう練習のたびに家族に気兼ねする必要はありません。

こうして再びピアノに向かいながら、人生の秋にこんなに嬉しい楽しみを再発見できたことをありがたく思い、しみじみと、ピアノを習わせてくれた両親に感謝したいと思いました。

こうして3か月間の自粛期間中、収入は見事にゼロになりましたが、いっきに貯金を使い、主にAmazonに貢献しながら楽しんだ濃密な3か月間でした。


ついでのようなご報告ですが、もちろん絵付け関係の事もしていました。

作品展に出す予定でいた作品を完成させました。

IPATからマガジンへの掲載依頼があったので、記事を送りました。

㈱日本ヴォーグさんからもカタログ掲載作品の依頼があり、制作し、送りました。

原宿陶画舎閉校閉店のニュースを聞いてから、ホームページにウェブショップページを作り開店しました。

ユーチューブにビデオを作って流そうかと準備をしましたがこれは思いとどまりました。






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